ヘンなものは飲まないように! 作:坂本龍馬さま この物語は、地球と環境などほとんどが非常に似た別の惑星での話である。 ユミコはとある富豪のメイドとして今年就職したばかりだった。 この家の主人はピエールという地元でもかなり名の知れたフランス人系の資本家だった。 今日はピエールの昔からの友人である人を客として迎えるということだったので、 一段と先輩の口調が厳しかった。 “何もそこまで言う必要ないじゃない……” そんな事を思いながらユミコはただ黙って作業を続けた。 「はい、作業が終了したら各自持ち場に待機するように。 当たり前のことですが、客人の食事を食べたりワインを飲んだりしないように。いいですね。」 先輩に言われユミコや他のメイド達が各自の持ち場に戻っていった。 「あっ、いたいた」 マサヨがユミコに駆け寄ってきた。 マサヨはユミコとは幼なじみで、昔からユミコ一緒に行動していた。 どちらかというとマサヨは気が強く、ユミコはいつもマサヨに付いていくといった感じだった。 「ふぅ、やっと終わったわね。ねぇ、なんか今日先輩やけにピリピリしてなかった?」 「うん、なんかものすごい神経質だったね。今日の客人はきっと相当なお方よ」 マサヨの問いかけにユミコは少しグチっぽい口調で言った。 「ねぇ、今日のワインってどこの銘柄なのかしら」 「さぁ、でも先輩があんなにピリピリするほど重要なお方だから相当な銘柄でしょうね。 1870年あたりのじゃないかしら」 「そんなに凄いのかな、その客人って」 持ち場に戻りながらユミコはマサヨと小声で話をしていた。 「あ〜あ。何かのど渇いたな。何か飲みたいな」 「私ものど渇いたわ」 二人でそんな事をボヤいていた。 「ねぇ、今日の客人のワイン飲んでみない?」 そう提案したのはマサヨだった。 「な、何言ってるのよ! そんなこといけないに決まってるじゃない。 見つかったらどうなると思ってるの!」 ユミコは強く反発した。 「大丈夫よ。ほんの気晴らしよ。たまには息抜きも必要よ」 「でも……」 もちろんいけないのはユミコもマサヨもわかっていた。 しかし何時間にも及ぶ準備の間はメイドたちは何も口にしていなかった。 「試しにあんたが飲んでみてよ」 そう言ったのはマサヨだった。 「い、いやよ。そんなの。もしばれたらどう責任とるのよ」 「大丈夫よ。ちょっとならバレやしないって」 自信満々にマサヨが言った。 「よーし、こうなったらジャンケンで決めましょう」 マサヨがそう提案した。 「望むところよ。わたしジャンケンは強いから」 ユミコが自信ありげに言った。 しかし勝負はあっけなく終わってしまった。第一手でマサヨが勝ったのだ。 「はぁ〜。なんでこんなことに……」 ドアの影でマサヨがニヤニヤ笑っていた。 「え〜、でも本当に大丈夫なのかなぁ……」 ユミコはまだ不安が残っていたが、意を決してグラスにあるワインを飲んでみた。 「ん〜、とってもおいしい」 ユミコの口の中に馥郁たる香りと味が広がった。 いままで味わったことのない物だ。ユミコは必死に銘柄を当てようとした。 すると頭がボーッとしてきて、周りがぼんやりしてきた。煙のようなものが 自分を取り巻いているようだった。段々意識が遠のいてきてユミコはその場にへたれこんでしまった。 グラスは床に落ち、中の液体が床に広がった。 しばらくして煙がはれると、ぼんやりとしていた意識が戻った。 ユミコはすぐに異変に気がついた。自分がさっきまで着ていたメイド服がなぜかなくなっていたのだ。 さらに腹部と手足と顔の一部には白い毛、それ以外にはこげ茶色と黒の縞模様の毛が生え、 耳はピンと上に伸びていた。どうやら身長も縮んでいるようだった。 そう、ユミコはネコ獣人になってしまったのだ。 「な、何なの!? これは!?」 ユミコはパニックに陥った。 「だから飲まないでって言ったのに〜。せっかく丹精こめて作った私の 最高傑作の秘薬が無駄になったわ。まったくあなたって子は、私の計画が台無しじゃないの!」 大きなドアに凭れかかってため息をつきながらピエールが言った。 「罰としてこれから私が言うことにすべてしたがってもらいますからね」 ピエールが鋭い眼差しでユミコを睨んだ。 「は、はい……。ご主人様……」 ユミコはビクビクしながら言った。 「まず、この首輪をつけなさい」 ピエールは赤い首輪をユミコに差し出した。 「早く!」 ピエールはユミコを怒鳴りつけた。 ユミコは急いで首輪をつけると、ピエールは満足げな顔をしていた。 「よぉ〜し。さて、これから君は私のペットなのだからな。何をして遊ぼうか? お客さんはもうキャンセルしてもらったから思う存分遊べるよ」 ピエールの笑い顔がユミコにはとても怖い顔に見えた。 どうやらユミコはピエールに気に入られてしまったようだった。 「いやっ、やめ……」 あまりの恐怖にユミコは言葉を失った。 ピエールはそのままユミコに倒れこんだ。 「また楽しませてくれよ。かわいい子猫ちゃん」 ピエールはまだ眠っているユミコの頬にキスをして部屋を出て行った。 しばらくしてユミコが起きた。 「う……ん。ご主人様……?」 自分以外だれもいないこの部屋には既に朝日が差し込んでいた。 ユミコはテーブルの上にメモが残されているのに気がついた。 『私の気が済んだら元に戻してやる。それまでおとなしく部屋で待っていろ。 食事はお前専用のを持ってこさせる』 テーブルの上の置手紙にはそう書いてあった。 「ユミコ様、ご朝食です。どうぞお召し上がりください」 マサヨが食事を持って部屋に入ってきた。 「では、ごゆっくりと」 そう言って頭を下げると、さっさと部屋を出て行った。 「ねぇ、ちょっと待ってよ!」 ユミコはマサヨに向かって叫んだが、マサヨは耳も貸さずにバタンと大きな扉を閉めた。 「どういうことなのよ〜。もう」 ユミコはため息をついた。 食事はいつもの賄い食とは格別に違っていた。ユミコはマサヨがむすっとしている訳がなんとなく分かった。 どうやらユミコはピエールと同等の位を与えられたのらしい。 そして、マサヨは罰としてユミコの世話係に任命されたのだ。 ユミコはそれはそれでうれしかったのだが、一刻も早く元の姿に戻りたかった。 しかしそれでは元のこき使われる生活に逆戻りしてしまう。ユミコはどうしたらいいかわからなくなった。 食事の最中、尻尾が気になったので触ってみた。ふさふさしていて気持ちよかった。 自分の体の前のほうに持ってきてみた。あまりにも気持ちいいのでユミコは自分の尻尾を抱いた。 「う〜ん、こんなにフサフサしてるんだ。気持ちいいなぁ〜」 しばらくは体のあちこちを触って気分を紛らわせていたが、しばらくしてそれも飽きてしまった。 それからは単調な毎日が続いた。朝と昼と夜の決まった時間にだされる食事をただ食べて、 ピエールが帰ってくるまではただ部屋から一歩も出ずに待っているだけだ。 夜になるとピエールが帰ってきて一通り仕事などを終えると、 ピエールはユミコと甘いひと時を過ごして、そして朝が来ていつもの時間に食事が来る……。 ユミコは完全にピエールの性玩具と化していた。 “早く帰ってこないかなぁ” そんなことを思いながら今日もユミコはただご主人様の帰りを待っていた。 完