星祭り 作:アカトリさま 『星祭り』の夜空を見ながら…… 広い河原に2人の少年が曇った夜空を見上げていた。 1人はイヤホンを耳につけてラジオを聴いていた。もう1人は望遠鏡で夜空を覗いていた。 耳にイヤホンをつけた少年が口を開いた。 「7月7日午後7時、ラジオで聴いたとおりなら降水確率百パーセントッ! 星を見ることが出来るのは最悪な事に0パーセントだッ!」 「伸、僕はあきらめないよ。たとえ1パーセントでもあの夜空の星を見ることが出来るのなら……」 「悟、ゼロなんだよっ!」 「織姫と彦星が1年にたった1回しか会うことが出来ない、そして1回のデートなんだ。 明日の芸能欄に載るまで待つなんてロマンの無い 事は出来ないよ」 悟と呼ばれた男の子はあきらめずに望遠鏡で曇った夜空を見続けた。 (いや、芸能欄には載らないしそっちの方がロマンが無いと思うぞ) しかし、伸はそれを口にはしなかった。多分、それを話題にしたくなかったのだろう。 「やっぱり……駄目なのか?」 悟は望遠鏡を下に向けて呟いた。 「悟、ちょっと貸してみ」 「う、ん?」 悟は伸に望遠鏡を渡した。 「もしかしたらまだ来てないのかも知れないしもう少し粘ってみようか」 「そうか……。うん、そうかもしれないね」 「あ!」 「何! 何なの!」 「みえた、夜の空にきれいなお姉さんが見えた。しかも着物みたいな服だ。乙姫かっ!」 「織姫だよ」 「そう、織姫だっ!」 「ねえ、僕にも見せてよ」 伸は悟に左手を差し出した。 「何これ?」 「レンタル料。100円な」 「はいこれっ、100円!」 「よしよし、じゃこれ」 伸は悟に望遠鏡を手渡した。 「どこ、どこなの、織姫さん」 必死に夜空に織姫の姿を探す悟。しかし、彼の視界は突然真っ暗になった。 「……何してるの、伸?」 見てみると望遠鏡を伸が手で隠していた。 「どういうこと、100円は払ったよ」 「1秒につき100円なんだ、はい追加料金払ってね」 伸は悟に左手を差し出した。 「いくら何でもそおりゃ卑怯だよ。第一、その望遠鏡は僕のものだよ、そのラジオだって!」 伸は逆方向に向いてダッシュで逃げだ出した。 「待ってよ!」 「待って欲しいのなら100円払えよだっ!」 同刻、天の川―― 光り輝く星の川のほとりで少女のような魅力を持った女性が向こう岸にある人の姿を 必死に探していました。しかし、探し人はなかなか見つかりません。 少女は不機嫌になって薄い赤になった頬を膨らませました。 「彦星ったら、いつもは30分前には来てるのにどうしたのかしら!?」 その時 「織姫ちゃーん!」 その声は彼女の耳に届きました。 「もう、遅いわよ! 何してたの」 「ごめん、仕事が長引いちゃって。この事は必ず巻き返すから!」 織姫ちゃんはしばらくそっぽを向いていましたが、やがて彦星の方に向き直りました。 「もう、仕方ないわね。必ずよ?」 「ありがとう織姫ちゃーん!」 そう織姫に叫んで彦星は彼女の方へと走り出しました。 一方、下界(地球のこと) 「待ってよ、って言うかそれ僕のもんじゃん!」 「ハハハ! 持ったもん勝ちだ!」 2人はいつの間に川の中を水しぶきを上げて追いかけ合っていた。 天の川―― 「織姫ーーー!」 「彦星ーーーー!」 2人はいつの間にかお互いに出会う為、天の川の中を光の水しぶきを上げながら走っていました。 でもって下界 「待てぇー!」 「待てといって待つ奴はいない!」 「というか伸の奴、体育の時間の時よりずっと速いじゃん。 ……人間ってこういう時に限って実力を発揮できるんだよね」 天の川―― 「彦星ーー!」 「織姫ーー!」 2人は天の川の真ん中でぎゅっとお互いを抱きしめあった。 「彦星、1年ぶりだよね! 2人でこうするのって!」 「……いや、いつもそうだよね」 ふたたびでもって下界 「ぅぉぉおおお、伸ーーー! 追いついたぞぉぉおおおっ!」 「ぅぉぉおおお! おいついたかぁ! 悟ぅ!」 2人は川の真ん中で取っ組み合った。 「かえせよ、それ僕のだよ!」 「金も貰わずに渡せるか!」 天の川―― 「彦星、笹持ったよ」 織姫は青々とした笹を持ってきた。 「うん、立派だなぁ。それで織姫は何をお祈りするの?」 「みんなが平和に暮らせますようにって」 「素敵だよね、じゃあ僕は織姫と僕が幸せになれます様にってお祈りしようかな」 「彦星……。ありがとう」 彦星は織姫の手をそっと握った。織姫もそっと握り返した。 せせらぎの流れる音の変わりに天の川は淡い光を放ち、2人を照らしていた。 みたびでもって下界 「渡してたまるかぁぁー!」 「いい加減返せよー!」 届くと良いよね、2人のお願い。……っていうか下界のお前らいい加減やめろ。